『RUMBLE IN THE JUNGLE』日本国内仕様盤ライナー全文





SOUL JAZZ RECORDSのジャングルコンピ『RUMBLE IN THE JUNGLE』。発売の2007年当時の日本国内仕様(カタログNo.BRSJ159。曲目やデザインは輸入盤とまったく同じ。帯付き&俺の解説文がプラスされたのが日本仕様)盤販売元であるビートインクに許諾をいただいた(執筆者である俺に権利があるということね)ので俺が執筆した解説を全文ブログに掲載します。

当時、CDとアナログが出たので持っている方もいらっしゃると思います。輸入盤しか持ってなかったって方も多いかも。

なぜ解説を全文アップしようと考えたかというと。ジャングルて何?という方々も多いだろうし、興味があって聴かれている方々でも、そういえばどういう成り立ちなんだろう?って思われてる方もいると思います。ジャングルの入り口として、さらに、よりジャングルを楽しんでほしいなっていう気持ちからです。

2007年当時の言葉のまま、加筆せず、そのままみなさんに読んでもらって、ジャングルへの興味と知識の幅が広がってもらえたらな、というところから今回の全文テキスト化に至りました。『RUMBLE IN THE JUNGLE』の解説は、ジャングルの歴史から収録曲紹介という流れになってます。


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収録曲はこちら

1. Asher Senator — One Bible
2. Ninjaman, Bounty Killer, Beenie Man and Ninja Ford — Bad Boy Lick A New Shot
3. M Beat With General Levy — Incredible
4. Barrington Levy & Beenie Man — Under Mi Sensi (X Project Remix)
5. Ragga Twins — Ragga Trip
6. Poison Chang — Press The Trigger
7. Shut Up And Dance — No Doubt
8. UK Apachi & Shy FX — Original Nuttah
9. Ragga Twins — Illegal Gunshot
10.DJ Zinc — Super Sharp Shooter
11.Ben Intellect With Ragga G — Oh Jungle
12.Cutty Ranks — Limb By Limb
13.Ragga Twins — Tan So Back


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『RUMBLE IN THE JUNGLE』解説文(by YAHMAN from CHAMPION BASS. 2007年当時)






アフリカ・バムバータがテクノをサンプリングしたヒップホップを発表、レゲエではチープなキーボードからスレンテンというリズムが飛び出し、ソウルやリズム&ブルースなどに電子サウンドをかけあわせたハウス・ミュージックが登場、ファンクやヨーロッパのエレクトリック・ポップに影響を受けたデトロイト・テクノが創造された。これらは、70年代のブレイクビーツ生誕を経た80年代の出来事で、ブラック・ミュージックのツボというツボが、同時進行で電気的に昇華され、世界中に衝撃を与える音楽革命が勃発する。この革命は、本作のテーマである【ジャングル】を生んだイギリスにも、当然飛び火する。

イギリス─── 第二次世界大戦後にイギリスに渡ったジャマイカやアジアからの移民が形成したコミュニティは、日常の親交、レゲエ/ダブのサウンドシステムが開催するパーティー等を通じて、イギリスの若者に従来無かった音楽感覚を注入し、根づかせていた。その結果、70年代末から猛威を奮っていたパンクのアーティストの一部が、レゲエとの共存を図るという出来事が起こる。そして80年代、ジャズ、ソウル、レアグルーヴがメインのクラブ・シーンに、ヒップホップ、ハウス、テクノという衝撃が入ってくる。80年代後半、各地で開催されていたウェアハウス・パーティーと呼ばれる非合法パーティー(クラブに入れなかった人たちが野外で始めたとされる)がレイヴとなり、ハウス/テクノ寄りのものが増え、巨大化の一途を辿っていく。その矢先、アシッド・ハウスがダンス・シーンを席巻。海賊放送局は最新の曲をかけまくった。これに刺激を受けたアメリカのヒップホップ勢が開発したヒップハウスが流入、イタリアからのハウスも弾み、ベルギーからのハードコアなテクノがレイヴの主流になる。スペインの避暑地イビザ島のクラブが発端の、クロスオーヴァーな音楽を浴びるバレアリック・スタイルが浸透していたこの時期、外からの音が入り混じって切磋琢磨しているものの、周りを海に囲まれた島(=イギリス)であるがゆえに、オリジナルが無いと評されることに憤っていたレゲエやヒップホップのクリエイター、サウンドシステムのクルー、機械的過ぎる音の隆盛に疑問を感じていたハウスのクリエイターたちは、独自のサウンドを世に出すべく模索を続けていた。彼らは、在英アジア系アーティストの曲がチャートを駆け上り、レゲエとヒップホップが歩み寄るといった好状況を味方に、ヒップホップ・ビートを高速化させ、そこにソウルやレゲエなどを取り入れたハードコア・ブレイクビーツを生み出し、レイヴにヒューマン・グルーヴを持ち込むことに成功する。幼い頃にソウルやレゲエに親しみ、少年期にヒップホップ、エレクトロ、ダンスホール・レゲエを知り、ブレイクダンスをしたり、安い機材で曲を作ったり、ラップを始め、サウンドシステムに通い、レイヴを経て、ジャングルのクリエイター/DJ/MCとなっていったストリート・キッズたちの原点は、ここにあった。肌の色の違いや社会的地位などを超えて人々がダンスで一体化するのを恐れたのか、政府側はレイヴ弾圧(ウェアハウス・パーティーも同様)をたびたび行った。が、パーティーは止められても、音楽を止めることはできなかった。かくして、90年頃、テクノにラガ(レゲエ)・ヴォーカルを乗せたラガ・テクノが現れ、遂に主役の【ジャングル】へと至るのである。

イギリスという土壌ならではの雑食性ダンス・ミュージック【ジャングル】は、超高速ブレイクビーツで縦ノリ、その半分のスピードのベースラインで横ノリに踊ることができる。ブレイクビーツのドラム部分は、そのビートの刻みパターンにさまざまあり、ファンクやヒップホップのドラムを高速回転させたものがスタンダード。創成期(90年から91年ごろ)は、MCが言葉を乗せられるようインストゥルメンタル中心で、ハウスの激しいキック(バスドラム)の四つ打ちが混ざっているものもあったが、時を経るにつれて、四つ打ちは分離し、ヴォーカル曲も出てくる。楽曲には、レゲエ、ヒップホップ、バングラ、ジャズ、ソウル、ファンク、ハウスといった作り手のバック・グラウンドが強く現れる傾向がある。爆音で体感するのを第一目的とし、各傾向に準じた音色の極太重低音が特徴となっている。ラガ・ジャングルは、サウンドシステム文化から脈々と受け継がれてきたレゲエのDNAを基調にし、パトワ語を駆使した新旧レゲエのヒット曲やサウンド・クラッシュの実況録音をサンプリングしたものと、オリジナルのリリック(歌詞)を新たに乗せたものとがある。レイヴの変遷の経緯から、きらびやかなシンセサイザー音が唐突に入るレイヴ・マナーに沿ったものも存在する。ジャングルは、その後、ドラムンベースと呼ばれるようになる。

本作(以下CD)は、ラガ・ジャングルを中心に、それ以前のラガ・テクノなども収録。ジャングルの変遷の一部を知ることができる内容となっている。まず、ここで登場してもらうのは、現在も最前線で活躍する兄弟MCのラガ・ツインズ。CDには、サウンドシステムのMCだった彼らがレイヴを通過し独自のレゲエを探究後に放ったラガ・テクノの傑作が収録されている(5、9、13曲目)。90年発表の9曲目はイギリス・ナショナル・チャート(以下チャート)51位になるなど、後進に道を開いた。そして、これらの曲をリリースしていたのが、シャット・アップ・アンド・ダンスだ。ヒップホップ中心のサウンドシステムとして活動の後、80年代末にクリエイターに転身した彼らは、ヒップホップを高速化させ、ハードコア・ブレイクビーツへと至らしめた流れの代表格である。CDには、2001年にニュー・スクール・ブレイクスと呼ばれるサウンドに挑戦したものを収録(7曲目)。この曲のイントロ部分は、まさにダブステップの源流、なのだが、間髪入れずにアホアホベースで攻めてくるところが彼等らしい。

この勢いでジャングルに足を踏み入れてしまおう。

ラガ・テクノとラガジャングルの速度の違いに驚かされつつ、超基本としておさえたいのが、エム・ビートがジェネラル・リーヴィーというイギリス屈指のレゲエ・ディージェイと組んだ94年のミラクル・ヒット曲(3曲目)。この曲は、チャートで40位(リミックスは8位。CDに収録されているのはオリジナル版)を記録したのをきっかけに、世界中で配給され、ジャングルの認知度をアップした歴史的な一曲。定番中の定番曲の8曲目(94年)は、MCのUKアパッチと、クリエイターのシャイ・エフエックスによるコンビによるもので、不穏なサイレン音から始まり、怒涛のラガ・ヴォイスとビートが突っ走る、チャート39位の超ヒット曲だ。さて、ここで重要な事柄がある。イギリスでは≪GREENSLEEVES≫、≪FASHION≫、≪ARIWA≫、ジャマイカでは≪STEELIE&CLEEVY≫といったレゲエ・レーベルがラガ・ジャングルに注目していた、ということを決して忘れてはならないのである。CDには≪GREENSLEEVES≫音源(2、4曲目)と≪FASHION≫音源(6、12曲目)を収録。95年産の2曲目は、ニンジャマン、バウンティ・キラー、ビーニ・マンという、ダンスホール・レゲエのツワモノが勢ぞろい。4曲目は、2006年に来日したイギリスのラガ・ジャングル最高峰コンゴ・ナッティーを率いる、レベル・エムシーを筆頭に、トップクリエイター・チームが94年に作り上げた大傑作で、バーリントン・リーヴィーとビーニ・マンの高らかな歌声が響く。6曲目は当時活躍したダンスホール・ディージェイの曲のジャングル・リミックスで、変態ベースに思わず踊らされてしまう。95年産ラガ・ジャングルの傑作のひとつである12曲目は、ゴリゴリサウンドの上をいくカッティー・ランクスの力強い野郎声でノック・アウト。この爆発力こそがラガ・ジャングルだ。そして、ひと味違うジャングルも収録されている。最近ではダブステップも作ってしまうドラムンベースのトップDJ/クリエイター、DJジンクが95年に大ヒットさせた10曲目は、ジャングルの音色が出尽くしたと思われていたリリース当時に、完全オリジナルのファンク・ビートの塊を投入し、一世を風靡。ラガではないが全ヒップホップ愛好家は必聴のジャングル。このCDに収録の全13曲は、それぞれ書き切れないほどの濃厚度を誇っているが、あくまでもジャングル入門編の“ひとつ”として考えていただきたい。なぜなら、名曲はまだまだ沢山あるし、世界中で今日も新曲が作られているのだから。

2007年─── レゲエのレコード店では、ラガ・ジャングル・リミックスを収めたアナログが時折再発されている。ジャングルからの影響を公言するダブステップのクリエイターもいる。言語の壁を越え、ジャングルの上で自由に言葉を乗せ表現している人々がいる。日本ではドラムンベースから逆行してジャングルの魅力を知る方が多くなっているのを感ずる今日このごろ。ドラムンベースとの違いを尋ねられることが多いが、このCDを聴けば、何が違うかは、たちどころに理解できるだろう。DJ中にダンスホール・レゲエとラガ・ジャングルを混ぜても、まったく違和感なく踊り続けてくれている方々が増えているという素晴らしい事実が目の前に広がっている。ひとこと、確実に言えるのは、ジャングルは、いつまでも生き続ける、それだけだ。

2007年5月2日
YAHMAN from CHAMPION BASS


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今回のようなレビュー全文WEBアップ化というのはなかなかないことでしょうし、今回は解説執筆が俺自身であるというところ、そして権利があるとビートインクに認めてもらったうえでの、俺の判断、そして行為でありますので、関係各所、ご理解よろしくおねがいいたします。ちなみに、転載自由というわけではないので、あしからず。その場合はひとこといただけると。

俺が書いていることは、俺の書き方、の部分もありますので(歴史的な部分の歪曲はしておりません。そのつもりです)。これは情報のひとつと思ってもらえればなと。俺なりにジャングル興味を覚えてもらえるようなきっかけづくりができたらなあと。そしてジャングルに興味出たら、どんどんおっかけてってほしいし、クラブに遊びに行ったりもしてほしいなあと、思うわけです。